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Atari5200 ― アタリショックの影に隠された不遇ハード [レビュー]

Had Atari retired the VCS when the 5200 was released, the crash might never have occurred.
もしもアタリが5200を発売した時にVCSを引退させていれば、ゲーム市場の崩壊は決して起こらなかったであろう。

―――「Classic 80's home video games」(08年)より




5200.jpg
Atari 5200 (from 英語版Wikipedia)

■Atari5200
メーカー:アタリ
発売年:1982年
価格:250ドル*1
ローンチタイトル:「スペースインベーダー」、「スーパーブレイクアウト」、「ギャラクシアン」
          「パックマン」、「センチピード」、「ディフェンダー」



Atari5200は、アメリカで1982年にリリースされた家庭用ゲーム機です。
我が国では極めて知名度の低いハードですね。まあ、発売されていないのだから当たり前なんですが(笑)

Atari VCS(77年)でアメリカに家庭用ゲームの一大ブームを巻き起こしたアタリ社ですが、その後継機の必要性は早い時期から認識していました。そして1980年にマテル社が競合商品のインテリビジョンを発売するに至り、新ハードの本格的な開発に着手します。
「それは『ポン』から始まった」によれば、Atari5200の開発時のコードネームはシルビアであったと説明されています。ただし、それは正確ではありません。
アタリ社が当初構想していたシルビアは、VCSとの互換性を持つ別のハードでした。しかしコレコ社が82年にコレコビジョンをリリースすることが明らかになったことから、なんとしても同年末のホリデーシーズンまでに新しいゲーム機を投入しなければならなくなりました。
そのために急きょ計画を変更して、79年に発売された8-bit PCのAtari400/800をベースにすることにしたのです。*2 新たにパムというコードネームが付けられたその新ハードは、Atari5200として82年11月にリリースされます。

公平に言ってAtari5200は、スペック的には悪くないハードでした。
解像度320×192、256色中16色表示可能、サウンド4音。チップ構成は異なりますが日本のぴゅう太セガSG-1000に近い表現力を有します。
VCSとの互換性こそ失われたものの*3、インテリビジョンやコレコビジョンに対抗するという目的から考えると決して遜色のないゲーム機でした。
ですがAtari5200には極めて重大な欠点がありました。それはコントローラーです。


5200_controller.jpg
最悪なゲームコントローラー TOP10 (from Game*Spark)

Atari5200のコントローラーには、当時としては先進的なアナログスティックが採用されています。しかし内部にスプリングが組み込まれていないため、自動的にポジションが中央に戻らないという困った仕様でした。
加えて、Atari5200コントローラーは極めて故障しやすかったことで知られます。そのためユーザーは、わざわざサードパーティ製のコントローラーを買い求めなければなりませんでした。

さらに事態を深刻にしたのが、アタリの営業戦略のチグハグさです。82年末のホリデーシーズンで、アタリが注力したのは旧世代機であるVCSの方でした。
もちろんアタリ社にもそれなりの事情はあったでしょう。既に全米で1000万台以上が普及していたVCS市場を見逃すわけにはいきません。実際、81年の好調な実績を基に小売店からVCSソフトの発注が大量に集まっていました。
そして致命的なことに、アタリは製造遅延を引き起こし、ホリデー前に十分な数のAtari5200を用意することができなかったそうです。

結果として82年の年末商戦でアタリは大きな損失を被りました。新たに参入したサードパーティの製品を含めて、あまりにも需要を上回るゲームソフトがVCS市場に注ぎ込まれてしまったのです。大量の不良在庫を抱えたアタリ社は翌83年に入ってからも損失を計上し続け、転落の一途を辿ることになります。

本来はVCSの後継機として登場したAtari5200ですが、その役割を果たせぬまま84年に製造が打ち切られてしまいました。
そんなAtari5200の商業的な評価に関しては、現地のアメリカでも意見が別れています。明らかに失敗したハードだと言う人も居れば、「実は最終的にはコレコビジョンと同程度のシェアを獲得していた」*4と肯定的に評価する声もあります。(Atari5200の普及台数やソフトの売上に関しては、残念ながら信頼できるソースを僕は知りません)

そして記事冒頭に挙げたように、いわゆる「アタリショック」と呼ばれるアメリカのビデオゲーム市場崩壊において、Atari5200は重要な鍵の一つであったとの指摘が近年では存在します。
ともすればVCSの失敗のみに市場崩壊の責を押し付けがちな我が国のアタリショック観ですが、事はそう単純ではありません。
新ハードのコンセプト、リリーススケジュール、深刻な不具合、そして旧世代機との兼ね合い・・・。アタリショックの舞台裏には、単に「粗製濫造」や「過剰供給」といった言葉では済ませることのできない幾多の要素がありました。

日本でファミコンが発売される以前の82年にAtari5200という名のハードが存在したことは、レトロゲームに興味がある方なら是非とも記憶に留めておくべき事実ではないかと僕は思うのです。


(参考文献)
・Phoenix: The Fall & Rise of Videogames
・Supercade: a visual history of the videogame age 1971-1984

【 脚注 】
*1 「The Ultimate History of Video Games」より。ただし270ドルとする異説も存在する。
*2 内部的にはアタリ8-bit PCとほぼ同等だが、ソフトの互換性はない。
*3 正確には83年に、Atari5200でもVCSソフトを利用できるアダプターが発売されている。
*4 ゾルゲ市蔵著「謎のゲーム魔境2」より、Atari Gaming Headquartersの飯田慶太氏のコメント。

(関連記事)
ファミコンが存在しなかったかもしれないゲーム史
ファミ通のアタリVCS特集 「30年目のアタリVCS」
写真で見る家庭用ビデオゲーム40年史
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コメント 12

M_t

>内部的にはアタリ8-bit PCとほぼ同等だが、ソフトの互換性はない。

純粋に疑問なんですけど、Atari 400/800をベースにしながら、ソフトに互換性はないというのは、何か理由はあるのですかね?
ソフトの移植はしやすかったとは思いますが・・・
やっぱり、PCとコンソールで棲み分けたかったのかなぁ。

by M_t (2008-09-08 20:44) 

loderun

nice!ありがとうございます。
Atari400/800はキーボード、5200はアナログスティックコントローラーと操作系が異なるため再調整が必要だったそうです。それ以外のプログラムの多くは流用できたため、移植は容易でした。
つうか全く同内容のゲームが多かったみたいですね(笑)
by loderun (2008-09-08 21:59) 

烏丸

"最悪なゲームコントローラ TOP10"に拙ブログへのリンクが・・・

5200は米国土産でもらった記憶があります。確かになんとも不可解なコントローラでして、思えば烏丸のコントローラ収集癖の原点は5200にあるのカモ。
※本文中にありますとおり、かなり早い段階で故障しましたが

全然ゲーム売ってないと思ったら・・・国内正規流通してなかったんですな・・・
by 烏丸 (2008-09-08 22:36) 

loderun

5200もそうですが、「サイドボタン+数字キー」を備えた縦長コントローラーって80年代前半に一瞬だけ流行りましたね。

トラックパッドコントローラーのレビューは僕も読ませていただきました。いかにもアメリカ人好みの、「思いついたから作ってみた」的製品で素敵です(笑)
by loderun (2008-09-09 07:54) 

烏丸

>「サイドボタン+数字キー」
 あの路線を愚かにも(w 踏襲したのがJaguarでしたねぇ。個人的には大好きなんですけれども・・・いやナニに使うのって話になりますがテンキー。しかしアメ公は思い付きを形にできる、ある意味うらやましい民族ですねぇ・・・いや、なりたくないけど。

by 烏丸 (2008-09-09 23:28) 

kantaro

そもそもアタリショックは都市伝説だったのでは? 市場崩壊どころか粗製濫造自体無かった。ホームコンピュータの隆盛でユーザーの関心が移っただけ。去年7月にloderunさん自身が目から鱗が落ちたリンク先のサイトを褒めていたじゃないですか。なんで今更アタリショック肯定論をブチあげるんでしょう?
by kantaro (2008-09-10 15:21) 

loderun

>烏丸さん
5200から話題は外れますが、アタリの変なコントローラーといえば84年に発表されたMindlinkはご存知ですか?
http://www.atarimuseum.com/videogames/consoles/2600/mindlink.html
もしも市場崩壊が無ければ、これが世に送り出されていたかもしれないと思うと、残念で仕方ありません(笑)

>kantaroさん
僕が問題にしているのは、"粗製濫造に全ての責を押し付ける旧来のアタリショック観"です。市場崩壊自体を否定したことは今迄一度もないです。
そしてClassic 8-bit/16-bit Topicsさんも、ホームコンピュータの隆盛「だけ」が原因とは仰っていませんね。
それでも尚、「アタリショックは都市伝説」だと貴方が信じるのであれば、まずは私が上に挙げた文献をお読みになってから反論願います。
by loderun (2008-09-10 20:21) 

烏丸

ヴァー、すごーいこれ。これなにすごーい。
早速拙ブログで取り上げさせていただいちゃいましたが、いやホントにこれ出てたら歴史が変わってますぞその後の。
by 烏丸 (2008-09-11 22:50) 

M_t

>Mindlink

ツボにハマリました(笑)
ATARIはフラナガン機関でも作りたかったのでしょうか。
by M_t (2008-09-11 23:22) 

loderun

烏丸さんのblogにも書きましたが、Mindlinkは額の筋肉の動きを読み取っているのだそうです。
残念ながら、強化人間養成マシンではありません(笑)
by loderun (2008-09-15 17:22) 

コレコビジョンP

突然ですみませんが、『立命館映像学』という紀要で、中村彰憲『北米デジタルゲーム産業形成期における家庭用ビデオゲーム専用プラットフォーム形成に関する比較事例研究 : Atari, Inc.とNintendo of America Inc.を中心に』にて、アタリ5200の販売台数は100万台と出ていました。

loderunさんはもうHPの更新は行ってくださらないのでしょうか?Twitterではこうした興味深い話になかなかたどりつけず、もやもやするばかりです。
by コレコビジョンP (2018-09-16 20:31) 

loderun

返信が遅くなりましたが、『立命館映像学』の情報ありがとうございました!
ビデオゲーム史に関する考察は続けておりますが、近年はtwitter上でのアウトプットに移行しておりました。(IDはloderunです)
また、今年に入ってVCSを題材にした同人誌を2冊刊行しております。
私が遅筆なこともあり、ご期待にお応えすることができず申し訳ありませんが、今後ともよろしくお願いいたします
by loderun (2018-09-30 18:05) 

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